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Pat Metheny & Charlie Haden ~ミズーリの空はどんなだろう?~ [洋楽]

               

私は、気に入ったアルバムは本当に聴き倒す。
よく「このアルバムは相当聴いたよ!」などと表現する時の「相当」とは、どのくらいのことを言うのか
わからないが、私の場合は、「これはイイ!」となると、とにかく狂ったように毎日聴く。
家のCDコンポには1年くらいの間、そのディスクが中に入っているか、いつでもかけられるように
すぐ横に裸のまま置いてあるかし、通勤バッグの中のMDは、日ごと週ごとに入れ替わる2,3枚の
ディスクと共に、年間レベルで居座る1枚になる。
(今はiPODだから状況は変わり、おかげさまでバッグも随分軽くなりました。)
結局、通算300回とか500回とかいうタームで聴くことになるので、自然と脳内プレイ完全再現
OK状態になるのは言うまでもない。

しかし、ボーッとヒマにしているか勉強机に座っているような学生時代と違って、多忙きわまり
ない会社員生活において、そこまでに到る作品にはそうそう出会えるものではない。
私の場合、2-3年に1枚出会えるかどうか・・・という感じである。

そんな中、一昨年のある夜、仲の良い会社の友人が、JR京浜東北線車中において
「このアルバム、あげるよ!」と フイに私にくれたのが、これだった。
Charlie Haden と Pat Metheny による、あるようでそんなにはない、ベースとギターという
弦楽器同士でのデュオアルバム 『Beyond the Missouri Sky』である。

タダでくれるっていうのは、彼自身あまりピンと来なかったからかな?と思ったら、どうもそうでは
なく、通常CDリリース後、また新たにライブ映像のスペシャルDVD付CDが発売されたのでそちら
を再度買ったから、最初のCDだけのほうが要らなくなった。とのことだった。
へぇ~そこまでするんだぁ~。お金あるなぁ~。などと感心しつつ、アルバムを手に取る。
三つ折の紙ジャケで、トップのジャケ写は、暗めのタイトルの下に、細く大地と空の写真。
で、中をパタンパタンと開くと、これまた大きく、広大な夕焼け空。

        

そう。チャーリーもパットも、この空の写真の場所、すなわちアルバムタイトルにあるミズーリ州の
出身らしい。
じゃあきっと同郷のよしみということで、大先輩チャーリーにパットが、「いつか是非一緒に」なんて
社交辞令を言ってたら、後輩に比べそんなに忙しくない先輩がそれを本気にして
「じゃあ来月辺りから1枚作るか、パット君。」なんて言い出し、エーッマジかよ俺忙しいんだけどぉ~
なんて思いながらも義理で渋々作った1枚みたいな感じかな?なんて思いつつ軽く持ち帰った。
家でちょっとだけ聴いたら、全体にアコースティックな雰囲気でだいぶおとなしめな感じ。
特に深い印象なし。

その後1週間くらいしてからか?会社からの帰り道、適当にヘッドフォンで音楽を聴きながら
トボトボと、丸い月がぽっかり出た暗い一本道を歩いていたら、このアルバムの5曲目にある
『First Song』がタイミングよく始まった。

ぐわ~!何、これ??? そこで腰くだけ。歩調がいきなり亀のように遅くなり、暗がりで
なんかもう涙が勝手に・・・・。
美しい。温かい。ピュア。シンプル。静謐。重厚。
その後は、とにかくもう「こ、このアルバムは、すす、すごいイイ~!!!」と感涙しながら
頭から終わりまで、聴き倒しモードに入ったわけであります。

このアルバムは、たぶん本来のガチンコなJazzを好む人などには物足りない作品かもしれない。
ヘンリーマンシーニとかイタリア映画音楽などを中心としたカバーが多くほぼ全編バラード。
きちんとしたコード進行をもつシンプルかつやや甘みのあるメロディ。ソロも短いし、Jazzならでは
と言える、コードやスケールからはみ出してのフリースタイルのプレイなどもほとんどない。
と、ここまで書くと、なんかイージーリスニング系とかヒーリング系?と思われそうだが、いやいや!
全然違うのです。というか、ジャズとかクラシックとかイージーリスニングとか、このジャンル、と簡単
に言えない、そういう垣根を超えた大きさがあるのだ。
ごくシンプルなようで気軽なようで、でも実はとても深みのあるアルバムなんである。
チャーリーのベースはどこまでも控えめだがズッシリ重く濃く、時に熱を帯びて高音部へ駆け上がっ
ていく感じ。それと対比するように、パットのギターは結構軽っぽい感じであくまで原曲のメロディ
ラインに忠実に添いながらも、彼らしい巧みなヴォイシングで、深い味わいがありやはり比類なき
素晴らしさ。(相当頑張って、ないボキャブラリからこれらの表現を紡ぎ出した。死にそう)

とは言え、やっぱりこのアルバムは本格指向の人から見たら「癒し系アコースティック作品」という
ことで軽く流される種のもののような予感もする。だって、All Music Guide の★の評価も、極めて
低いのですよ。このアルバム。
これを「2年に1度出会えるかどうかの名盤」と両手を挙げて喜ぶ私は、やっぱりまだまだ音楽性
が甘いということなんではないかと。
それこそ、上記で書いたのと完全逆パターンで、
「きちんとしたコード進行などなく、複雑で、甘みがなく、ソロが多く、コードやスケールから
はみ出しまくる。」といった音楽を愛でる人のほうがきっと絶対クロウトらしいし、かっこいいに
決まっている。
しかし・・・悲しいかな、私はやっぱりJazzと言っても結局ここ止まりかなぁ~。
心は正直なので、同じパットでも、もっとストレートに気難しくJAZZと取り組む作品 (例えば
『Question & Answer』 とか)なんかを訳知り顔でiPODの中に入れ込んだりしてみても、結局
このテを聴き込む土壌が自分の中にないものだから、回って来るたびに1分ももたずにSKIP
ということになる。
やっぱり、メロディやフレーズそのものが美しく、あれこれ解釈を必要とせずともシンプルに心に
入ってくる音楽しか真の意味で愛することは出来ない。あくまで自分の尺度で、であるが。
なのでまあ、あまりムリや背伸びをせず、一番心和み、または一番心躍る音楽を自分の好きなよう
に聴いていればいいのかなと思ったり。
(でも、こういう一応公的な場所で「このアルバムが最高!!」などと叫ぶのは、自分の音楽性が
丸裸になってさらけ出されている感じがして、やたらと恥ずかしい。今さらだけども。)

でも、このCDを私にくれた人(彼は相当のレベルのギタリストである)も、それだけ良かった
から重ねてまた同じDVD付きCDを買ったのであって、やっぱりいいアルバムってことじゃないか
とは思うんだけどな。(どうしても弱気)

さて話は戻るが。
このアルバムの13曲はどれもいいのだが、特別私が好きなのは
 ①First Song
 ②Waltz for Ruth
 ③Spiritual
 ④Moon Song
 ⑤Two for the Road

こんなところでしょうか。
特に①、②は甲乙つけがたい。
しかしやっぱりFirst Song は秀逸ですね。個人的にはサンボーンのサックスによるFirst Song
より全然こっちです。サンボーンのほうが湿っぽい感じ。こちらのほうが淡々としている。
というか私の場合、単なるギターびいきなので冷静な意見とは言えないが・・・。
なににせよ、この『First Song』 は、文字通りここ数年の My First Song。
あと、②も誠によろしい。だいたいアルバムの1曲目というものは間違いなく良いというのが相場だ。
私も結構簡単な人間ゆえ、どんなアルバムも、1曲目は大抵気に入る。しかしこの1曲目は、
とりわけ素晴らしい。これだけ聴くと、テンポも速くて結構ポップなアルバムなのかなと一瞬
勘違いする感じ。

毎日のiPODのシャッフル演奏でいつどこで回って来ても、このミズーリのアルバムの収録曲は
絶対飛ばさずちゃんと聴く。スキップすることはほとんどない。
急いでいる朝も、まったりした夜も、いつでもハッとして耳を澄ましてちゃんと聴く。
そのくらいフェイバリット・アルバムになりました。こういうのを一期一会と言うんでしょうかね。

うーむ長々語りすぎた。

それに、まずいかも。
ブログ開始で30回も経たないうちに、うっかりこのアルバムに手を出してしまった。
これって、イチゴのショートケーキを、尖った角のスポンジのところから丁寧に食べ始めたというのに
ふっと魔が差して、突如イチゴを一気に食べちゃったみたいな感じ。
と、言うくらい、かなり真打ちのポジションにある1枚なのである。

その割にはたいした文章が書けなかった。
しかし、本当にイイものには、人は言葉を失うものであり、その素晴らしさに充てるにふさわしい
適切な言葉などは意外にないものである。
いいからいいんだ、と言うしかない。


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Nomad

この際、恥も外聞もなく言わせていただきますが・・・
このアルバム、この上なく大好きですー!(あー、言っちゃった!)

いや、真面目な話:チャーリーとパットのひとつひとつの音を紡ぎ出す様に、静かに、しかし確実に心を掴まれるような感動を覚えますね。それはまさに音楽が生まれる瞬間の感動のドキュメンタリー???

これはまさしくピュアなジャズだと思いますよ。別にジャズなんて言わなくても良い。ピュアに人の心に語りかける音楽ですよね。ハードなジャズが好きな人だって、結構このアルバムを好きだったりするものです。なぜなら音楽って、表層のハードさやソフトさもありますが、深層のところにあるピュアさこそが好きになる本当の理由だから。

こんなピュアな音楽に触れることできた幸運に乾杯しましょう!
by Nomad (2005-09-14 12:50) 

milk_tea

コメントどうもありがとうございます!嬉しいです。
そうか!ピュアなJazzと言っていいのですね。良かった~
一生のうちにあと20枚くらい、これくらい気に入るアルバムに出会える
といいな~と思いますけど。
自分自身ももっと、真に素晴らしい音楽を真っ直ぐに受け入れられる
技量というか感受性というか、器の大きさみたいなものを持ちたいです。
(大真面目に語ってしまった。)
by milk_tea (2005-09-15 00:43) 

ayumusic

できました、できました、過去記事のTB!(←初心者のしょぼい喜び)やり方は、、、
・TBしたい自分記事の詳細設定画面を出す。
・TBされたい相手記事のURLをコピーする。
・詳細設定画面のトラックバックURLにペーストする。
ここ↓がポイントです!
・そのURLに、/trackback を追加する。
そして、
・保存ボタンをクリックする。
お試しを。
by ayumusic (2006-05-28 15:07) 

milk_tea

おお!ayumuさんありがとう!!
で、早速TBされてますね。やりましたねっ (・・)v
(って、1年近くso-netブログやってる人間たちとは到底思えぬ、ショボイ
レベルの会話。バカを吹聴しているようなもの・・・笑)
by milk_tea (2006-05-28 23:58) 

ayumusic

聴きました。女性に大人気のベーシストとしては(←しつこい)、低音が迫ってくるモニター用ヘッドフォンで聴きました。これからしばらく聴き倒させていただきます。
これに関連した記事を書いときましたので、良かったら覗いてみてください。トラバも試してもらってもいいですよー。
First Songはmethenyというよりは、hadenの世界ですね。スパニッシュなjoe hendersonを彷彿とさせる感じ。良いですね。metheny作の二曲もアコースティック+シタールのエキゾティックな感じで気に入りました。とにかくベーシストで良かった、、、(自画自賛)
by ayumusic (2006-05-30 22:50) 

milk_tea

あ、ayumuさんすみません・・・このアルバムの話、ここですれば良かったのに
ayumuさんのところに書いてきてしまいました。
そうそう、ベースって素晴らしいなぁってこのアルバムで改めて(初めてかも)
思いました。で、その後ヘイデンのアルバム4,5枚買っちゃいましたよ。
どれも良かったです。ayumuさんもベーシストでよかったですね。女性に人気
だしね(真偽のほどは定かでない)
by milk_tea (2006-05-31 00:29) 

ご無沙汰です、お元気ですか。
最近またcharlie hadenを聴いているので、再びトラックバックしてみました。methenyも新譜が出るらしいですよ。
by (2008-01-28 23:00) 

milk_tea

おーっ。渋いところにコメントつけて下さりありがとうございます。
(コメント入ると、そこのアクセスが少し増えて、旧記事読んでもらえる。)
アメリカン・ドリーム持ってますよ、いいですよねぇ~。
ブレッカーも死んじゃった・・・・。時代は流れていきますね。
パットの新譜、出るんですか?知らなかった。買わなきゃ。
ま~た前作みたいな度肝抜くスゴイのが出るのかしら。
しかし1曲が25分とか、やっぱりやめて欲しい!ヘヴィすぎ!!(笑)
by milk_tea (2008-01-29 11:54) 

メセニーの新譜、聴きました。めちゃいいですよ。Bright Size Life以来のノリの良さがあります。機会がありましたらぜひ。度肝を抜くというよりは、日常風景を 切り取っていく感じです。
by (2008-02-02 00:36) 

milk_tea

見た見た!(Amazonで)
これだったんですね。私去年、ブルーノートにこのトリオのライブ観に行った
んですよ。もうねぇ、あれは異常でしたね。頭の中でどうリズムを刻んでいる
のか、三者グッチャグチャになるのに(実際はグッチャグチャじゃないのだが)
要所要所でビシ~ッと揃う・・・・あれは感動というより驚愕でした。
真の天才というものは、数学と音楽にのみ存在するという話を聞いたことが
あるけれど、そういう片鱗を感じさせる演奏でしたね・・・・。
それにしても、このジャケットの絵、いいですねぇ。ものすごい好みかも。
パットのアルバムはいつもジャケットがセンスいいんですよね。
私もやっぱり買おうかな・・・・。ayumuさんは「日常風景」を感じたという。
私の印象と対極にあるみたいなので興味あります。(単に選曲の問題か)
by milk_tea (2008-02-02 01:24) 

イチロ

素晴らしい音楽に出会えて、その音楽に感動する。
そこにジャンルなどは関係なく、
理屈では関係ない
普遍的な素晴らしさがある。
そういう音楽との出会いを大切にされていることは、
素晴らしいことだと思います。
パットとヘイデンが(いずれも素晴らしいアーティスト)、なぜ
あえて小難しいことをせずに、
聴きやすい語り口でこの作品を作り上げたか。
技術がすべてではなく、技術はあくまでも表現方法の一手段であり、
どんなにテクニックがすごくても、陳腐な音楽は星の数ほどあります。
根底に流れているのは音楽のもつ優しさ、美しさ。
ヘイデンのブルーグラスをつづった新しいアルバムもぜひ聴いてみてください。そこではパットもギターを弾いているし、何よりも美しい音楽と素晴らしい家族と、音楽を愛するヘイデンの素晴らしい心が結実した作品になっています。
by イチロ (2009-02-26 21:30) 

milk_tea

イチロさん初めまして。nice!とコメントをいただきありがとうございます。
また、リアクションが遅くてごめんなさい。

>技術がすべてではなく、技術はあくまでも表現方法の一手段であり、
>どんなにテクニックがすごくても、陳腐な音楽は星の数ほどあります。

本当にそうですね。難しい構成の曲とか、超技巧の演奏とかは確かにそれだけ
で素晴らしいものだとは思いますが、そういうものとは無縁のシンプルな音作りから、はるかに奥深い感動が得られることは多い。
とはいえ、このアルバムのパットとヘイデンの演奏も、存分にスゴイんですけどね。
この優しさ、ピュアさ、美しさはいつ聴いても本当に胸を打ちます。

>ヘイデンのブルーグラスをつづった新しいアルバムもぜひ聴いてみてください。

彼のアルバムは3枚持っていますが、それは聴いていないです。パットも参加しているんですね。ちょっとチェックしてみます。
イチロさんのブログも音楽に対するストイックな姿勢が見えてとても好感持てます!オフコースの昔のアルバムについて色々書かれてもいますが、あの辺は実は私も大好きです。また宜しくお願いします♪

by milk_tea (2009-03-01 00:48) 

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