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歌詞の世界 Ⅴ (ユーミンと大貫妙子) [ユーミン]

          Album 『copine.』

このように私は、語り始めると止まらないくらいにユーミンが大好きであるが、ユーミンを語る上で個人的にどうしても比較対象にあげたくなってしまう女性アーティストがいる。
それは大貫妙子である。

日本の歌謡曲主導の世界から一線を画してシティポップス(ニューミュージック)が徐々に台頭し始めたわけだが、ユーミンも大貫妙子もその先駆者的存在だ。今でこそ全く棲む世界もファン層も活動のテリトリーも違うようにみえる2人ではあるが、核の部分では、そのくすみ感のある優れた音楽性や、メロディに乗せずとも充分に観賞価値の高い優れた歌詞、またどちらかというと「ヘタ」にすら聴こえるドライな歌唱スタイルが却って曲の世界観を邪魔しないでいる点など、実は共通部分は多い。

例えてみれば、2人の核となる資質は、同じく「文芸部出身」なのであるが、荒井先輩は兼部のシーズンスポーツ同好会のほうに入り浸ってしまい文芸部のほうにほとんど顔を見せなくなってしまった一方、大貫先輩はしょっちゅうリュックひとつで長い旅行(主にヨーロッパ方面)に出ては戻ってきて律儀に部室に顔を出し、存在は地味めながらも外国の香りを漂わせる個性あふれる素敵な部員であり続けている感じだ。

ユーミンは徐々に商業ベースの波に飲まれて、万人受けする大衆的な方向に傾き、音数も言葉数も賑々しく増えていったが、大貫妙子はとことん自分の世界観や美学を貫き通し、雑音の多い日本の音楽業界から上手い具合に距離を取りながらあくまで少ない音数と言葉数をもって独自の世界を表現し続けてきたアーティストである。

私という人間は、どうしようもなくミーハーな部分と、マニアックでアカデミックなものに憧れる部分が同じ強さで共存する2面性があり、そういう点で言っても、ユーミンと大貫妙子、どちらも捨てがたく好きなんである。
オープンカーの助手席で海沿いをドライブしながらユーミンのサーフ&スノウを聴くのも楽しいし(その行動自体、もはや昭和の忘れ物って感じだけど)、家で深夜一人、大貫妙子のモノクロームでアンニュイなサウンドに耳を傾けつつ本を読んだり物思いにふけるのも何にも代えがたく楽しい。

さて、「歌詞の世界」だから歌詞についての話になるが、ユーミンの歌詞もター坊の歌詞も(突然であるが大貫妙子はシュガーベイブ時代からこう呼ばれていたので私もそう呼んでみる)どちらもその歌詞の鑑賞と分析でご飯が1杯食べられるほどに内容が濃い。
しかし、似たような状況を歌った作品でも、多分にター坊のほうがアカデミック=わかりにくい。
ユーミンも時に抽象的で実際的でない表現の歌詞を書くこともあるし、またター坊も、きわめてシンプルな言葉でラブソングを書くこともある。
それでもその違いは、例えて言うならば、難解な直木賞作品と平易な芥川賞作品の違い。
どう頑張っても、前者は何となく理解の範囲内にあるが後者は何だかよくわからない。
後者が「何だかよくわからない」のに、私がター坊の歌詞を溺愛するのは、ユーミンの歌詞のように、そのストーリー性で感動しているわけでなく、言葉ひとつ又は情景描写の一節という断片のみでイメージが広がり感動できるからである。

以下は、私が大好きなター坊の「copine(コパン)」というアルバムの中の、きわだってノーテンキな曲 「Les aventures de TINTIN」の歌詞。

    ルリルラルリラ口笛吹き鳴らし
    天気がいいや散歩に出かけよう
    街のやじうま横目に
    僕は急がず寝て待とう 港で

    タンタン スノーウィ 星を追いかけ
    ニッカーポッカー 足取りも軽い
    奇妙な情熱さ


うーーん。わからない。
ユーミンの曲には絶対出てこない世界。なんだ、タンタンスノーウィって・・・?
           
ユーミンの作品の中からも、ノリ的に上記と同様の明るさとノーテンキさを持った曲をちょっと拾ってみた。アルバム「OLIVE」より、「稲妻の少女」。 (抜粋)            

      


     エンジン・フードで卵が焼けるほど
     あの娘はとばして浜辺についた
     ゆうべ天気図にたくさん線ひいて
     台風の位置を確めたのさ
    
     今日をのがしたらお目にかかれない
     逆巻くチューブに鳥肌がたつ

     今日をのがしたらお目にかかれない
     バレーのようなカット・バックに

ちょっと関係ないけど、こうして改めて見てみるとユーミンは本当に言葉の魔術師。天才だ。
車をぶっとばしてやってくる比喩として、「エンジンフードで卵が焼けるほど」・・・なかなか出てくる表現ではない。歌い出しから「卵」はかなりオツだ。
逆巻くチューブに鳥肌がたつ、とか、バレーのようなカットバックに、とか、当時の巷の文化レベルから言っても、よくこんな弾けた言葉を持ち出してきて曲に乗せられたものだ。

と、歌詞に改めて感動するために抜き出したわけじゃなく、えーと、そうそう。
ユーミンワールドは、かくも容易に頭の中にその映像が浮かび上がる。頭からっぽ・サーフィン大好きな女の子が台風到来でワクワクしている感じ。
だいたい場所も、太平洋沿岸地区、湘南海岸の辺とまで限定できる。
(ちなみに、もちろんユーミンのくすみのある深い音楽性から、こういうカラリとしたメロディと歌詞があえて軽ノリで紡ぎ出されていることは理解せねばならない)
その点、ター坊の歌は舞台となる場所の国籍からして不明である。とても日本とは思えない。
また、主人公がどういう人なのか、何がしたいのかも何だかよくわからない。
こういうノーテンキな曲ですら判らないのだから、もっと暗めの曲となるとほとんど始末に負えなくて

     はりつめた音楽を震わせて 弦が切れる
     現れる怪しげなたくらみを振りほどいた
     過ぎ去る日々 私は歌わない

     音もなく傾いた風景を 胸に抱いて
     華やかな楽園をかけぬける 息をひそめ  (不満の暗流) 

不満の暗流。タイトルからしてかなり・・・

ほぼ、キーツやシェリーの散文詩の世界。もはやわかろうとしても無駄。
彼女も、この曲を通して何かを言葉で訴えようとはしていない。言葉遊びのように、メロディになじむ語感と雰囲気のある言葉を適当に充てた感じ。
でもこの乾いたアカデミックな世界に身を置いて、わかった気になり悦に入るのがまたよいのだ。

とはいえ、彼女の曲には行間にふいと、映画の1シーンのような美しい場面が出てきたりして、そういうのにまたコロッとやられてしまう。

      生きてさえいればまた会える 
      あの日びしょぬれの私を抱きしめて 
      泣いた貴方に

これなんて、前後の歌詞がなくてもこの3行だけで泣ける。
上質な外国映画のラストシーンでこういう感じの場面ってよくある。
ユーミンの描く世界だと、月9ドラマ最終話のキメのシーンレベルの映像と言わざる得ないが、そこは異国情緒あふれるター坊ワールド。一足飛びに美しいフランス映画の1シーンとなる。

だいたい、男が泣いているだけでこっちも泣けてしまうし。
私も昔、別れる別れないで、目の前で男に慟哭に近い泣きをされたことがある。彼は今幸せにやっているのだろうか・・・?(まあそういう個人的な話は今どうでもよく・・・)

ということで、うっかり大貫妙子がカットインして「歌詞の世界」も一体どこまで引っ張るつもりか我ながら見当がつかなくなってきたが、Ⅹ(10)以内で何とか終える所存であります。

ところで・・・




この2人の、ナイフで切ったような目の細さ。
これもかなり似ている。


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コメント 6

linus

はじめまして、こんにちは。
タンタンの歌を探していて、こちらにたどり着きました。大貫妙子さんの曲だったのですね・・・。20年近く前に友人がラジオからテープに録音したのをくれて(ちょうどあの歌詞の部分だけでしたが)、不思議な楽しい気分?に浸ったのを思い出しました。今はあのテープもどこへやら・・・。友人がYMOや矢野顕子さんが好きだったので、矢野さんの曲だと思いこんでいました。今よく思い出してみると声が全然ちがいましたね・・・。彼女が自分の好きな音楽をテープにまとめて、時々私に「聴いてみて!」とくれたのでした。その中にあの曲があったのです。
そうそう、ふと思い出して探してみたのです。
「ルリルラルリラ・・・・」をみてびっくりしました。あぁ!これこれ!って。題名も分からなかったけど、タンタンの歌ってことだけ覚えてたんです。タンタンの冒険っていう絵本とかキャラクター商品にもなっている、タンタンという男の子とスノーウィーという白い犬のことです。欧米での方が認知度が高いのでしょうか?でもきっと見たことあると思いますよ。偶然とはいえ取り上げてくださってありがとうございます。さっそくCD探してみます。
by linus (2005-09-19 12:34) 

milk_tea

Linusさん、コメントどうもありがとうございます。
そうなんです!これをアップしたすぐあとに、「タンタンの冒険」について
すぐに調べがつきました。なので、少しも「ワケわからない歌詞」じゃない
んですよね。少なくともこの曲に関して言えばものすごいわかりやすい
歌詞だったわけです。(・_・;) (単なる無知だった)

「copine」はものすごくイイAlbumですので絶対オススメです。
個人的には坂本龍一作品の5曲目(アミコなんちゃら)が、伸びやか、かつ
さりげなく才能ほとばしる感じで大好きです。併せて聴いてみて下さい!

>彼女が自分の好きな音楽をテープにまとめて、時々私に「聴いてみて!」
 とくれたのでした。

(笑)!!(失礼・・。笑わせてないですよね別に)
あの頃は(どの頃だ?)、恋愛というものにはそういう作業は必ずセット
でしたよね。曲順もものすごく頭を悩ませて・・・。
カセットテープは最初少しテープを巻いて空白部分を送っておかないと
イントロが切れたり・・・・A面の最後、ギリギリ曲の最後が切れちゃって
またやり直したり。
面倒だけど、妙に楽しい作業でした。
でも、タンタンを入れてくれた昔の彼女さんは趣味がいいですよね!(笑)
by milk_tea (2005-09-19 18:29) 

white berry

少々のご無沙汰です。
クラシック編もものすごいコメント数で驚きますね。さりげなくやってらっしゃる割には大変な人気ブログではありませんか。記事の文章の練られ方が素人の域ではないですし当然かとは思いますが。
私は(私も?)クラシックはほとんどわかりませんので、空気も読まず恐縮ですが再び古い記事にコメントを・・・・。
このユーミンと大貫妙子比較は2編ともかなり面白く拝見しました。

>2人の核となる資質は、同じく「文芸部出身」なのであるが、荒井先輩は兼部のシーズンスポーツ同好会のほうに入り浸ってしまい文芸部のほうにほとんど顔を見せなくなってしまった一方、

このあたりの表現とか、まさに!という感じですね。
二人とも基本は文芸部なわけですよね。よくわかります。出発点としては同じところだったけれど、やはりユーミンのほうが欲張り体質なんでしょうね。スキーにも行きたし本も読みたしというような・・・・。何となくmilk_teaさんもそんな方なのではないかと勝手に推察しておりますが。(笑)

どんな切り口(テーマ)も大変面白くまとめられてますけど、やはり歌詞分析が出色のようにお見受けします。またこの辺りを是非、お願いいたします。
ユーミンがスキーやサーフィンに繰り出す直前で、まだ文芸部の部室に何とかとどまっていた頃(笑)の「時のないホテル」「OLIVE」あたり、如何ですか?
by white berry (2006-07-13 10:37) 

milk_tea

white berry さんいつも本当にありがとうございます。

>やはりユーミンのほうが欲張り体質なんでしょうね。スキーにも行きたし本も
>読みたしというような・・・・。何となくmilk_teaさんもそんな方なのではないか
>と勝手に推察しておりますが。

鋭い!(笑)
そうですね、かなり欲張り体質ですし、性格的にも、ものすごく社交的で
ハチャメチャな部分と、ものすごく内向的でひとりで暗~くゴソゴソ本読んだり
音楽聴いたりしてる部分とが完全に半々の人間です。
white berry さんはどのようなタイプ?

ところで、そうですね!ユーミンあたり、そろそろまた書いてみようかな。
時のないホテル、Olive、その辺大好き!!!腕が鳴りますね。
by milk_tea (2006-07-14 10:06) 

NOBU

長年、お二人の曲を聴いています。
ユーミンの歌詞は「恋愛ドラマ」
ター坊の歌詞は「旅」「風景画」
そんな感じがします。
昔の曲ではター坊もビブラートを使っていますね。

本当はここに吉田美奈子も絡ませたいとことですが、、、、
by NOBU (2024-03-02 23:00) 

milk_tea

NOBUさま、休止状態のブログにコメントをくださりありがとうございます!
ユーミンもター坊も本当に甲乙つけがたいですね。どちらも大好き過ぎます・・・。
今、インスタグラムでユーミンの曲を片っ端から取り上げては長語りしているアカウントがあるので、よろしかったらそちらを見てみてください!インスタに入って yuming_lyrics1202 で検索していただくと出てきます!!ター坊の曲もちょいちょい出てきます。
by milk_tea (2024-03-27 00:24) 

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