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Minnie Riperton  ~コップに半分だけ満杯の天使~ [洋楽]

            

ミニー・リパートンといえば、『Lovin' you』。
美しいメロディと愛情深い歌詞、そして何よりも、人の声が出し得るレベルを超えた音域のミラクル
ボイスであまりにも有名なこの曲。
でも『Lovin' you』以外の彼女の楽曲を何か知っているかと聞かれたら、もしかするとほとんどの
人が「知らない」と言うのではないか?

しかし別に彼女は、「世紀の一発屋」なわけではない。アルバムも、5,6枚出している。
だいいち、アルバムの数でそのアーティストの偉大さを量れるわけでもない。1曲ヒットさせた歌手
より10曲ヒットさせた歌手のほうがエライという法もない。そういう意味では、別に「世紀の一発屋」
でもいいのだ。

彼女の声と曲を初めて聴いた人は、もしかすると黒人が歌っているとは思わないかもしれない。
濁りのない透明な声質もそうだし、歌唱スタイルそのものにも、黒人らしい引っかかり感のある
強い癖がないからだ。そして何よりも、歌う曲がどれもブルースではないということがある。
ブルースを歌わない黒人歌手。 これだけでも、もうある一定の価値がある。

ミニー・リパートンを語る時、誰もが必ず忘れずに口にするだけに、今さら私が書く必要もなく、
出来れば書きたくないがやっぱり書かないわけにいかないエピソードは、何と言っても
31才という若さで早逝したという彼女の短く濃い生涯についてである。
胸に進行性のガンが見つかって片側の乳房をなくしてからも、彼女は家族と明るく毎日を過ごし
ながら、常に前向きにライブのステージに立ち、そしてアルバムを作った。

この『The Best of Minnie Riperton』は、彼女の死後、メインとなるスタジオ録音の数曲に、
闘病生活をしながらも行っていたライブ時の歌や語りを入れ込んで全体をショー形式にまとめた
作品で、いわゆる単純な「ベスト」モノとは一線を画した、トータルアルバム的作品である。

とにかくもう、素晴らしい!!アルバムだと思う。
よく「無人島に持って行きたい10枚」を選べなんていうお題があるけど、私はこのミニーのベストは
確実に持って行きますね。というか、ミニーの音楽を聴いてその懐の深さを最もピュアに感じられる
場所は、無人島において他ないような気すらする。
何もない空と大地の間に一人立って、朝日を臨みながら、夕日を眺めながら聴くミニーの歌声は、
ほとんど神が天から手を差し伸べているような恍惚に近い気持ちにさせるに違いない。
彼女の歌を聴いていると、彼女が実際はどんなふうに生きたのかなどよく知りもしないというのに
ああ私ももっと真摯な姿勢で生きていかなければならない。とか、今生かされている喜びをもっと
感じよう。などなど、普段ほとんど考えたこともない、およそ音楽を超えたきわめて根源的な
思いに立ち至ってしまう。
そういう意味でもこのアルバムは、音楽的感動のレベルを超えて「自分をリセットしたい時聴きたい
1枚」と言えるかもしれない。

ちなみに、私は「ベスト盤を聴かない」を音楽鑑賞の基本モットーにしているが、ミニー・リパートン
に関しては不本意だがこのベストアルバムがBEST!である。
通常のアルバムを2枚持っているが、明らかに駄曲が多くてハッキリ言ってかなりイマイチ。
iTUNESからも外してある。

     そのイマイチなアルバムのミニー。なんてカワイイ・・・!

しかし「なんでこんなのをあえてアルバムに採用するのだろう」と思うようなクソつまらない曲を
(失礼・・)あのエンジェルヴォイスで、無垢な子供のように丁寧に高らかに歌い上げているのを
聴くと、曲がどうこうなんてのはもう関係なく、その寛容さというか愚直(これまた失礼・・)さに
また逆にひとしきり心打たれたりするのである。
(打たれはしても、やっぱりそうそう聴きませんけどね~)

とにかくこのアルバムはイイんです。全く駄曲なし。当然、『Lovin’ you』は入っているが、私は
もはやこのアルバムを聴く時は、すでに聴き過ぎた感もあってか、この曲はSKIPしている。
それでも何ら遜色がないほどに、Lovin'you に匹敵する名曲が多いのだ。
全体の構成もよく考えられていて素晴らしい。

最初と最後のほうに2回出てくるライブでの語りも、彼女の温かさ、意志の強さをよく表している。
そのうちで、彼女の言葉として最も有名な一節はこれだ。
(これを書くに当たって、眉間にシワを寄せながら何度もこの部分を聞き直し、忠実に書き起こし
てみた。おそらくこれで合っている)

"I guess you could say I'm one of those kind of persons that would…,much
rather look at the glass half full, rather than a half empty."

ここのことを、日本では一般に
「私をグラスに例えると、半分からっぽというより、半分一杯なのよ」と誰もが訳しており、しかも、
「自分を半分のグラスに例える=片胸を切除したことをかけている」などという定説があるようだが
こうして彼女の生の言葉をよく見てみると、どうも少し違うような気がする。

「私は(水の入った)グラスを見ると、半分しか入ってないな、というよりむしろ、半分も入ってるわ、
という見方をするタイプの人間と言っていいと思うわ」
という感じではないか。きわめて直訳だけど。

(せっかくのところでいきなり本題から外れるが、こういう英語表現を見る時、日本語との根本的な
成り立ちの違いを改めて思い知らされる。そして、ネイティブはこういう難しい文法表現の1文が
こともなく口から突いて出るのだという現実に、日本人の英語学習の限界を知る。)

(話戻る) 2つの意味合いは、まあたいして違わないのだが、私は後者のほうがやはり好きだ。
それに、このニュアンスだと、特に乳ガンになぞらえているわけではないとも思える。

いくら前向きに生き抜いた女性と賞賛されていても、半分乳房をなくしたことをこんなふうに
サラリとステージ上で小粋にシャレるほど、自分の女としての人生に達観出来る人間など
居ないんじゃないかと、どうも私個人的には思えてしまう。

                                            

(追記)
その後、アルバムのライナーノーツをちょっと読んでみた。(データを集めすぎると自分の言葉を
見失ってくるので、あまりそういうものは見ないようにしているのだが、少し不安になり)
ミニーは、ガン手術のあとずっとその事実を隠して鬱々と過ごしていたが、ある時考えを改め
テレビや雑誌で広く「乳房を除去した」事実を広く語ることから自己再生の道を歩もうとしたら
しい。なので上記のセリフはやはり、「あえて」自分の現実をなぞらえての表現だったようだ。
意志の強い人である。

しかし何にせよ、私としては何となくあまり、そういう悲劇的かつ美しすぎるエピソードありきで
彼女の曲を聴いたり評価したりするのはやっぱり気がすすまない。


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コメント 4

roland bynum

『Lovin’ you』というのはS.Wonderが書いたんでしたっけ?
これニュー・ジャズのローランド・カークというラッパ吹きがカヴァーしてますが
そちらもなかなかいいですよ。この人は髭もじゃのアフリカの新興宗教の教祖さんのようなイカツイおっさんですが、こんな人がラッパで、『Lovin’ you』の
ような愛らしい曲を吹きまくると妙な感じが出ていいんですね。
by roland bynum (2005-11-02 14:32) 

milk_tea

いや、Stevie ではなかったと思います。彼も2,3曲提供してると思いまし
たが別の曲です。この曲は相当多くのアーティストがカバーしていますよね。
トランペットでのカバー作品もあるんですねー。
ローランド・カーク知りません。(何も知らんなー。)
by milk_tea (2005-11-03 02:03) 

ayumu

ごぶさたです。
自分の曲がLovin'Youにそっくりだということに気付きリミックスしてみたらやっぱりそっくりでした。それくらい脳味噌にすりこまれている音楽です。
グラスハーフのお話は、究極のプラス思考として心に染み入りますが、でもこのひとのミラクルボイスは、もっと艶っぽくて根源的な、個人的なことを超越した響きを感じます。
by ayumu (2009-11-21 00:32) 

milk_tea

ayumuさん、古い記事にコメントどうもどうも。
私の記事も、初期はけっこう短かったんですね(笑)
しかしあんまり面白くないな。
グラスの話は確かに素晴らしい。私なんか「私のグラス、あの人より水位が
1cm低い。ずるい」といってブーブー怒るような人間です。もっと修行しないと・・・。
ayumuさんは精力的に曲作りしていてスゴイですねえ。パワフル。

by milk_tea (2009-11-21 15:30) 

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